虫の音
鈴虫やこおろぎが鳴くと「あー 秋だー」としみじみとした風情を感じるのは日本人。
しかし、欧米人にとってこれは騒音である。こおろぎが室内で鳴き始めると落着かない。
アメリカの友人宅の台所にこおろぎが一匹入りこんで、気持ちよさそうに鳴きはじめた。そこの大学生の美しいお嬢さんはその声を聞いてイライラし始めた。スリッパを片手に叩きつぶそうと追いかけはじめた。半分怖いのでなかなか命中しない。しかたなく私が捕まえて外に放り出した。彼女はようやく落着いてまた本を読み始めた。
犬の鳴き声
近所の犬がいつもないている。
我々は「またかうるさいなー」とは思うが、そのお宅に注意しにいくことは憚られる。 アメリカ人にとっては堪えられない位、苦痛に感じるらしい。「あのかわいそうなパピーはどこの犬か」ときく。とても気になるらしい。
この家が建て込んだ東京で、犬を飼うという事は大変なのだ。それに日本人は動物を飼うのがあまり得意じゃない。犬や猫を家族同様に扱ったりする。人間様は動物より上位なのだからしっかり躾をして、動物をコントロールする。それが苦手で、ついつい動物を甘やかしてしまう。大和民族は農耕民族・彼等は狩猟民族。やはり民族の血は争えないのだろうか。アメリカの友人宅の犬テイファニーも私によく甘えてきた。いつも私にクッキーをねだる。彼等がそうするように、私も「No beggar!」と叫んでみた。英語の発音が下手なのか、迫力不足なのか相変わらずおねだりは続いた。犬が入ってはいけない部屋に入ろうとすると「テイファニ!」というだけで、スゴスゴとねぐらの方に行く。しかし、私が言っても知らん顔!時々そこのお嬢さんの名前「ステファニー!」と叫んでしまうのだから、バカにされても仕方がない。
音
夜遅く帰った留学生は泥棒よりも静かに部屋に帰る。
つけておいた階段の電気も音をたてずに消す。どのドアも音をたてずに開け閉めする。深夜トイレを使った時は流さずにそのまま。音で他人に迷惑をかけるのは厳禁である。私にとっては、寝ながら心配しているので帰ったと判れば安心して眠れる。アメリカの両親だったらもう大人だから「I don't know」なのだろう。
岩岡登代子 (September 23, 1999)